障害・福祉

知的障害をもつ子どもの進路

「学ぶ場」を下さい

特別支援学校に就学した知的障害をもつ子どもたちが、高等部を修了したあとの進路のほとんどが「就労」である現状。

その現状と問題点、そして今求められる知的障害児の「学ぶ権利」を確保するための新しい動きについてまとめました。


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目次

  1. 特別支援学校とは
    1. 対象となる児童・生徒について
    2. 小学部・中学部・高等部の3部門がある
    3. 高等部を修了しても高卒資格は得られない
    4. 文部科学省の学習指導要領から
  2. 現状 ~知的障害をもつ子どもたちの進路~
    1. 特別支援学校高等部とは
    2. 特別支援学校高等部卒業後の進路
    3. 本当の希望とは
    4. 知的障害者の発達
  3. 問題点
    1. 教育格差
    2. 世界の特別支援学校では
    3. 現状で進学を実現するのは至難の業
    4. 学ぶ場所がないことの真のデメリット
  4. 知的障害者の高等教育について
    1. 高等教育を目指す新たな動き
      1. 「専攻科」を先駆けた関西
      2. 九州発の「福祉型カレッジ」
    2. 福祉型専攻科の現状
  5. まとめ

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1. 特別支援学校とは

特別支援学校(とくべつしえんがっこう)とは、障がい者等が「幼稚園小学校中学校高等学校に準じた教育を受けること」と「学習上または生活上の困難を克服し自立が図られること」を目的とした日本学校である。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

1-1. 対象となる児童・生徒について

特別支援学校の対象となる児童・生徒は、知的障害、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由者、病弱者のいずれかに該当します。

1-2. 小学部・中学部・高等部の3部門がある

特別支援学校は義務教育期間にあたる小学部、中学部、そして義務教育期間ではない高等部の3部門に分かれています。

特別支援学校と地域の学校とでは、カリキュラムそのものが大きく異なっており、特に義務教育期間にあたる小・中学部では、「生活する力」を育むための基本的な身辺自立を図ることに重きが置かれています。

高等部では、個々の障害特性に応じて卒業後の進路を決めるための3年間として、職業訓練や実習などが充実したカリキュラムとなっています。

カリキュラムについて詳しくは1-3.文部科学省の学習指導要領から、の項目でご紹介します。

1-3. 高等部を修了しても高卒資格は得られない

前項でご紹介したとおり、義務教育期間ではない高等部での学びは、いわゆる「高等教育」を受けるものではないため、大学や多くの専門学校を受験する際に必要な「高卒資格」は得られないのです。

この時点で特別支援学校に在籍する生徒に、「進学」という道が実質的に閉ざされてしまうことになります。

1-4. 文部科学省の学習指導要領から

学習指導要領「生きる力」

‣小・中学部の学習指導要領について

小学部及び中学部における教育については,学校教育法第72条に定める目的を実現するために,児童及び生徒の障害の状態及び特性等を十分考慮して,次に掲げる目標の達成に努めなければならない。

  1. 小学部においては,学校教育法第30条第1項に規定する小学校教育の目標
  2. 中学部においては,学校教育法第46条に規定する中学校教育の目標
  3. 小学部及び中学部を通じ,児童及び生徒の障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服し自立を図るために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うこと。

文部科学省 特別支援学校小学部・中学部学習指導要領より抜粋

‣高等部学習指導要領

高等部における教育については,学校教育法第72条に定める目的を実現するために,生徒の障害の状態及び特性等を十分考慮して,次に掲げる目標の達成に努めなければならない。

  1. 学校教育法第51条に規定する高等学校教育の目標
  2. 生徒の障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服し自立を図るために必要な知識,技能,態度及び習慣を養うこと。

文部科学省 特別支援学校高等部学習指導要領より抜粋

このように掲げられていますが、
学習指導要領「第2章教科」についての項目は、
知的障害者と、視覚・聴覚障害者などに分かれており、細かく記載があります。

知的障害者の教科に対する記載は、長いページのほとんど末尾にあります。

知的な発達がゆっくりな子どもたちが、学力を付けるのは確かに長い時間と根気がいることで、限られた学校での授業時間を考えても、教科学習に割ける時間が限定的になることも理解はしています。

では、知的な発達がゆっくりであることが理由で、その後の「学び」を諦めなくてはならないのでしょうか。

この点について、次項以降の現状と問題点、未来の展望へと展開していきます。

2.現状 ~知的障害をもつ子どもたちの進路~

2-1.特別支援学校高等部とは

前項でも触れましたが、知的障害をもつ子どもたちの通う特別支援学校の高等部では、その後の就労に向けて実践的なカリキュラムが組まれることになります。

ここで生徒はどういった形で就労するのか、を保護者や先生と話合いながら卒業後の自分の居場所を決めていくというイメージです。

卒業後に高卒資格が取れないため、「進学」という道はほとんど無いに等しいのです。

2-2. 特別支援学校高等部卒業後の進路

高等部卒業後の進路内訳

平成30年度 知的障害者の進路内訳です。

大学等進学就職社会福祉施設その他
特別支援学校高等部卒業生
(知的障害者)18,668人
105人
(0.5%)
6,338人
(34.0%)
11,267人
(60.4%)
958人
(5.1%)
文部科学省 「特別支援教育資料より

進学したのは全体の0.5%
福祉的就労を含む就労は全体の94.4%となっており、
知的障害者は高等部を卒業する18歳には、ほとんどすべての方が就労している、ということになります。

わたしの娘が通っている特別支援学校では、進学された方はいませんでした。
また、同県内の別の特別支援学校でも進学された方はいませんでしたが、就労継続支援を受けながら通信教育で学びたい、と頑張っておられる方がいらっしゃいました。

知的障害者の就労とは

特別支援学校高等部を卒業した後の進路としての「就労」とは、以下のような種類があり、福祉的就労も含まれます。

  • 一般就労【法定雇用率2.2%】
    • 一般雇用(障害のあるなしに関わらない雇用)
    • 障害者雇用(障害者限定採用枠)
  • 就労移行支援
    会社で働くための力を身に付ける訓練等給付サービス(原則2年間)
  • 就労継続支援(A/B型)
    福祉サービスの一環
  • 生活介護

2-3. 本当の希望とは

前述の進路内訳にありましたが、94%の方が就労しているという事実に、
その進路の希望も94%の方が就労であったのでしょうか。

専攻科滋賀の会*が特別支援学校高等部に在籍する生徒の保護者279名に対して行ったアンケートの結果では、実に72%の方が
『卒業後に学ぶ場が必要である』と回答しています。
(*現 全国専攻科(特別ニーズ教育)研究会)
出典:知的障害者の高等教育保証への展望2より

事実、本記事をまとめようと思ったわたし自身の希望でもあります。
現在就学を迎えたばかりの娘ですが、今後どのように発達し、どのような将来を望むのかはわかりませんが、もし高等部卒業後の学びの場が用意されていて、そこに「進学する」という選択肢があれば、それは大きな希望になることは確かです。

2-4. 知的障害者の発達

知的障害という明確な基準はありませんが、現時点ではIQによって定型発達と一定以上の差があること、となっています。

子どもの心理発達の面から、発達がゆっくりな子どもたちを考えた時、見落とされがちな青年期について考える必要がある、と教えてくれたのは、全国で初めて九州で知的障害者の高等教育の場をカレッジとして設立した、「ゆたかカレッジ」の創設者、長谷川正人氏の著書「知的障害者の高等教育保証への展望2」です。

根幹にある考え方は以下のようなものが挙げられます。

  • 知的な発達がゆっくりな子どもたちにはより時間をかけて学ぶことが大切
  • 青年期を十分な経験とともに過ごさないことで、「就労」に必要な心理発達の機会がない
青年期とは

発達心理学における青年期とは、概ね15歳から24歳くらいとされており、ちょうど高校生から大学生にあたる年齢を指します。

この時期の様々な経験は、自分で考え自分で律する力を養うために必要不可欠なもので、フランスの哲学者ルソーは著書「エミール」では第2の誕生と記されています。

周囲に教わること、導かれることなどをもとに、「自分はこうである」という大人になるために基礎となる自分軸での思考・行動をし始める時期である、というものです。

この自分軸が形成される前に、18歳になった途端、就労という限られた道だけではなく、もっと自分を探したり自らの希望を形にするための「学びの場」が求められており、さらに十分な青年期を過ごした知的障害者が、目を見張る発達を遂げ社会に貢献しているという事実をも、長谷川氏の著書は教えてくれました。

3. 問題点

3-1. 教育格差

特別支援学校高等部を卒業した生徒の進路では、大学等に進学したのはわずかに0.5%であったのに対し、普通高校を卒業した生徒の約7割が進学しているという事実があります。

これは140倍以上もの格差と言うことができます。

知的に遅れがあるという理由で、それ以上学ぶという選択肢がない、というのは明らかな不平等であると言えます。

2006年、国連では
「障害者権利条約」が採択されました。

障害者権利条約とは、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として,障害者の権利の実現のための措置等について定める条約です。
外務省 人権外交より抜粋)

その中でも第24条第5項では、知的障害を含むすべての障害者が一般的な高等教育の享受が保証されるべきである、とされています。

3-2. 世界の特別支援学校では

上述の国連が採択した障害者権利条約の存在で、世界的に先進諸国では知的障害者の高等教育の場を提供する動きが広まりました。

アメリカでは多くの大学に、知的障害者が通う事ができる事実。
韓国等にある多くの特別支援学校では、高等部を卒業した後の学びの場「専攻科」があるという事実。

では日本ではどうでしょうか。

残念ながら、知的障害者が大学に通ったり、高等部を卒業した後も学ぶという姿そのものが想像できないのではないでしょうか。

また、そんなニーズがあるとは、多くの方が想像もしないことなのではないでしょうか。

3-3. 現状で進学を実現するのは至難の業

本サイトでは、特別支援学校では学力というより生活力を身に付ける場である、とお伝えしてきました。

そして高卒資格が取れないので、進学という道がほとんど無いに等しいとお伝えしてきました。

ですが、100%進学が無理ではないという事実もあります。
現に0.5%の方が進学をしています。

可能性その1
‣専修学校へ進学する

専修学校とは

「専修学校」は昭和51年1月、新しい学校制度として創設された学校教育法第124条に定められた「学校」です。
「専修学校」の目的は「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図ること」です。

全国高等専修学校協会ホームページより

‣専修学校の種類

種類課程対象名称
1高等課程中学卒業者○○高等専修学校
2専門課程高校卒業者○○専門学校
3一般課程学歴・年齢等問わず○○専修学校
全国高等専修学校協会ホームページより抜粋

上記の通り、中学卒業資格で受験資格が得られます。

‣分野

専修学校は以下の通り、多様な分野に分かれています。
また、以下の分野に限らず、不登校の生徒を受け入れる、資格取得に注力するなど、特色ある教育をされています。

分野主な設置学科
1.工業情報処理、コンピュータグラフィックス、自動車整備、
土木・建築 電気・電子、放送技術、無線・通信 など
2.農業農業、園芸、畜産、造園、バイオテクノロジー、
動物管理 など
3.医療看護、歯科衛生、歯科技工、臨床検査、診療放射線、
理学療法、作業療法、言語聴覚療法、
はり・きゅう・あんまマッサージ指圧、柔道整復 など
4.衛生栄養、調理師、製菓、製パン、理容、美容、エステ など
5.
教育・社会福祉
保育、幼児教育、社会福祉、医療福祉、介護福祉、老人福祉、
精神保健福祉 など
6.商業実務経理・簿記、旅行・観光・ホテル、会計、経営、医療秘書、
流通ビジネス OA、ビジネス、福祉ビジネス など
7.服飾・家政ファッションデザイン、ファッションビジネス、
アパレルマーチャンダイジング、和洋裁、編物・手芸、
スタイリスト など
8.文化・教養デザイン、インテリアデザイン、音楽、外国語、
演劇・映画、
写真、通訳・ガイド、公務員、社会体育 など
全国高等専修学校より抜粋

‣修業年限

学科によって1年制から5年制まで

高等課程の3年制を卒業すると、専門課程(専門学校)に入学することもできますし、大学入学資格付与の指定を受けている学校であれば、大学や短期大学を受験することも可能。  

専修学校は全国に500校以上あります。
専修学校について詳しくは、全国専修学校協会ホームページをご覧ください。

可能性その2
‣高卒資格を自力で取る

特別支援学校とは別に、自力で学習するか、学習をサポートしてくれる放課後等デイサービスやフリースクールなどを利用して、指定のカリキュラムをこなせば高卒資格が取れるというものです。

可能性その3
‣通信制高校に通う

通信制高校とは

“高校には、通信制・全日制・定時制と3つの教育課程があります。
通信制高校は、”通信による教育を行う”ため、登校回数などが全日制・定時制と異なりますが、卒業の際に得られる高校卒業資格はおなじものとなります
そのため、通信制高校の卒業後に進学しなかった場合の最終学歴は、”高校卒業”となります。”
通信制高校ナビより抜粋

上述のように、登校に縛られず、自宅などで学習を進められるため、現在では発達障害を持つ生徒の進学先としても注目されつつある学びの場です。

現実問題として高いハードル

上述のように、現在でも進学に向けた細い細いパスウェイがあるものの、いずれの可能性も困難を極めます。

専修学校は中学卒業で受験できるとはいえ、一般の小・中学校と特別支援学校では、「学校」という環境が大きく違うため、まったく別の世界に飛び込むことになります。
また、専修学校は支援教育の場ではないため、ソーシャルスキルの側面から進学後に継続して通うことが困難な場合もあります。
学力の側面からも、通学以外に自力で学習するなどの多大な努力と時間が要ります。

通信教育は、自宅で学習を勧められるメリットが大きいですが、継続して学習を続けるためには、本人のモチベーションを保つことや、保護者の支援が必要になるなど、クリアすべき課題も多いのも事実です。

それに、学習をサポートしてくれる放課後等デイサービスも、サービスの区分上18歳までの利用と制限があります。

そんな困難さが、進学率0.5%という数字が表しているのです。
0.5%とは、1000人に5人、という割合です。

3-4. 学ぶ場所がないことの真のデメリット

特別支援学校高等部を卒業した後に学びの場所がないということのデメリットは、単に知的障害者の気持ちの問題だけではありません。

十分に青年期を経験しなかった知的障害者が、18歳で就労をしたとしても、心が未発達なことで離職してしまうケースが多いといいます。

また、もし十分な高等教育を受けることができたら、将来的に納税者になれる知的障害者がたくさんいる、という可能性を、「ゆたかカレッジ」は示してくれています。
「ゆたかカレッジ」では、一般就労が難しいと言われていた方たちが、卒業後その7割もの方が、就労しているという事実があります。

高等教育によって、就労を続けられて納税者になれるのだとしたら。

その可能性を見過ごしていることこそ、当事者にとっても社会にとっても、大きな大きなデメリットではないでしょうか。

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4.知的障害者の高等教育について

4-1. 高等教育を目指す新たな動き

知的障害者の高等教育の在り方を変えるべく、全国に先駆けて現在大きく2つの動きがあります。

4-1-1. 「専攻科」を先駆けた関西

2000年頃から関西圏で「福祉型専攻科」の設置が広がり始めたそうです。

ここでの「専攻科」とは、特別支援学校高等部専攻科を指します。

以下、ウィキペディアより抜粋です。
(クリックで元ページが見られます)


特別支援学校の高等部に設けられる専攻科は、高等学校や中等教育学校の各専攻科の入学資格を持つ者が対象となる(法第82条にて第58条第2項を準用)。

障害を持つ人を受け入れる準備ができている高等教育機関が少ないため、特別支援教育を行う学校である特別支援学校(2007年3月31日までは「盲学校」「聾学校」「養護学校」)では、継続教育の場として専攻科を設けている学校が多い。高等部から継続して、あるいは新たに学ぶことによって職業能力および資格の取得を行うことを目指す。さらに、「特別支援学校高等部学習指導要領」では、視覚障害と聴覚障害の学校の専攻科については、標準的な教科と科目も示している。

具体的には、視覚障害の学校では保健理療あん摩マッサージ指圧に関する教科)、理療はりきゅう、あん摩・マッサージ・指圧に関する教科)、理学療法の教科が、聴覚障害の学校では理容・美容歯科技工が示されている。全般的に専門職業人(スペシャリスト)の育成と、社会的自立をめざすことを目標においているものが多い。

高等学校や中等教育学校と同様に、「修業年限が二年以上であることその他の文部科学大臣が定める基準を満たす」専攻科の修了者は大学編入学が認められるほか(学校教育法第82条にて第58条の2を準用)、専攻科に続く課程として研修科を独自に設けている例もある。

2014年度、知的障害を対象とした特別支援学校で専攻科を設置しているのは9校である。内訳は、私立校8校と国立大学法人附属校1校である。中でも、2006年度に国公立養護学校として初めて高等部専攻科が設置された鳥取大学附属養護学校(現: 鳥取大学附属特別支援学校)は、青年期の「自分づくり」を目的とし、学校から社会へのスムーズな移行が可能になる教育実践を目指している(2年制課程、1学年定員3名)。

また、2004年11月には特別支援学校高等部への専攻科設置拡大、そして広く特別な教育的ニーズを有する青年たちの教育機会の保障を目指して、「全国専攻科(特別ニーズ教育)研究会」が発足し、研究運動活動を展開している。しかし、知的障害を対象とした特別支援学校における高等部専攻科の設置が叶わない地域では、障害者総合支援法に基づく自立訓練事業を活用して、「福祉事業型専攻科」と称した「学びの作業所」づくりを進めており、福祉の場における教育の実現を目指している。


このように、知的障害者の卒業後の学びの場として、現存の福祉制度の1つである「自立訓練事業*」を使った2年間の「福祉型専攻科」を設置する動きが広まり、現在関西圏には50か所ほどあるそうです。

*自立訓練事業とは

障害者総合支援法に定められた「障害福祉サービス*」のひとつです。
*厚生労働省ホームページ内の「障害福祉サービスについて」

4-1-2. 九州発の福祉型カレッジ

先述の関西発の福祉型専攻科の動きを取り入れ、
自立訓練事業2年間と、就労移行支援事業2年間を組み合わせて、4年型の「福祉型カレッジ」に発展させたのが、本サイトで度々ご紹介している「ゆたかカレッジ」です。

第1号カレッジは、福岡に、
その後長崎、北九州へ、そして早稲田や横浜などの関東圏に拡大し、現在全国に8キャンパスを展開していらっしゃいます。

4-2. 福祉型専攻科の現状

以下は平成24年に行われた特別支援学校の専攻科に関する実態調査の結果です。

特別支援学校専攻科に関する実態調査 (文部科学省ホームページ)

視覚・聴覚障害者が対象の専攻科は多く存在するものの、知的障害者が対象の専攻科は知的障害者は全国に公立1校、私学7校のみでした。


わたしの住む地域でも、盲学校、ろう学校には専攻科がありますが、知的障害が対象の特別支援学校には一校もありませんでした。

特別支援学校は、年々在籍生徒数が増加し、現在全国で増設の動きがあることから、設備も教員も手一杯な現状です。

平成20年 在籍生徒数 112,334名(1026校)
平成30年 在籍生徒数 143,379名(1141校)
文部科学省「日本の特別支援教育の状況について」より引用

このような現状を踏まえて、福祉事業所の方々のご活躍のおかげで、今少しずつ知的障害者の高等教育の場が広まりつつあります。

4-3. 報道に見る「福祉型専攻科」の広がり

2014年に西日本新聞で取り上げられた記事です。

西日本新聞2014年2月6日付
「特別支援学校卒業後 学びの場 「専攻科」増やして 」
保護者ら全国集会 「ゆっくり社会へ」

知的、発達障害などのある若者が特別支援学校高等部に引き続いて学べる「専攻科」を増やそうという運動が展開されている。昨年末には福岡市で「全国専攻科(特別ニーズ教育)研究会」(田中良三会長)の全国集会が開かれた。背景には、高等部を卒業しても大学へはほとんど進めず、就労や福祉作業所への入所など選択肢が限られている実情がある。生きる力を育む「学びの場」づくりについて考えた集会の様子を報告する。

「子どもたちはゆっくりと力をつけて育つ。高校3年間だけで社会に出るのは厳しい」。はじめに講演した見晴台学園(名古屋市)の藪一之学園長は、そう指摘した。

西日本新聞2014年2月6日付「特別支援学校卒業後 学びの場「専攻科」増やして」より

 

5. まとめ

知的障害者を取り巻く環境は、整っているとは言い切れない現状があります。
知的障害者に高等教育が本当に必要なのか、本当にニーズがあるのか、そのような声は今でも多くあると思います。

IQという知能指数で能力は測れます。
でも、心は測れません。
その人の魅力も数値化できるものではありません。

知的な発達が遅いということは、
その人の魅力にはなんら関係がありませんし、
知的好奇心がない、と言い切る根拠にはならないと思います。

人間の欲求は、
「生理的欲求」「安全への欲求」「社会的欲求」「自我欲求」「自己実現欲求」
の5つあると言われています。

「生理的欲求」を段階1として、「自己実現欲求」を段階5とすると、
段階1が満たされると、段階2、段階3、と階段を上っていくように高次元の欲求が生まれる、と言われています。

この階段を上っていく過程は、知的障害者でも健常者でも同じことです。
一つ一つの欲求を、丁寧に満たしていけば、さらに上を目指したいという欲求が芽生え、認められたい、人の役に立ちたい、との思いが芽生えるのは自然なことなのです。

逆を言えば、一つ一つの欲求が満たされないと、その上へは登れないのです。

知的障害者の高等教育は、まさにこの高次元な欲求を生むために必要なステップであり機会・期間であると、わたしは思います。

確かに障害があることで、できることとできないことがあります。
ですが、感情というのは必ずどんな人にも存在していて、その感情に向き合ってくれる環境を、誰しもが望んでいるのだと思います。

障害の程度によって、周囲が制限を設けるのではなく、個々人の望む道が実現するための道が開かれている、そんな環境が一日も早く整うことを願っています。

夢を、希望を、実現するために努力ができる環境。
この知的障害者の高等教育だけに限らず、どんな人にもどんな境遇の人にも、等しく教育が受けられる環境。
日本には他にもまだ課題がありますが、一人でも多くの人が関心を持つことが世の中を変える力になる、そう信じて、この記事のまとめにしたいと思います。

最後になりましたが、本記事を投稿するにあたり、
掲載を快諾して下さいました、
ゆたかカレッジ学長であり、
「知的障害者の高等教育保証への展望2」の著者でもおありの、
長谷川正人先生にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

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